自転車サビ学
サビる仕組みがわかればおのずとわかるお手入れの方法
鉄はサビびるとホッとする
 鉄の原料は鉄鉱石です。鉄鉱石は自然界において非常に安定している物質で、その酸化物である鉄鉱石から酸素を取り除いて作られたものが鉄なのです。ゆえに鉄は自然界では極めて不安定な存在であり、常に酸化して元の安定した酸化物に戻ろうとします。この安定した状態に戻ろうとする現象が「サビる」という事なのです。すなわち、サビるとは人間によってむりやり裸にされた鉄原子が酸素原子等により「落ち着く状態」に戻ろうとするもので、極めて自然な現象ということができます。
鉄は塩分ではサビない。
 サビ(腐食)には乾食と湿食があります。乾食とは水の仲介なしで鉄と酸素が直接反応し腐食することですが、常温ではその反応は極めて遅く問題とならない程度です。一方、湿食とは水と酸素の作用により腐食することで、水の存在により電気化学的作用が生じ、常温でも腐食します。通常生活の中で問題となる腐食は湿食です。この湿食における腐食は、鉄と水と酸素の化学反応であり、塩分(NaCl)は関係していません。しかし、海水や食塩水がつくとよくサビることは経験的に知っていることです。なぜ、塩水がつくとサビやすいのでしょうか?それは鉄表面に塩分が付着すると、塩分には潮解(固体が空気中の水分を吸って溶ける現象)という性質があって、空中から腐食に不可欠な水分を調達し保つ役割を果たしているからなのです。従って、自転車が海水に浸かった場合、早めに水洗いし塩分を除去することが大事となります。(もちろん水洗いした後に十分水分を拭き取る必要があります。)また塩分は腐食反応により消費されることはないため、いつまでも腐食が継続されることになります。塩分がサビらしているのではなく、塩分が保つ水分が酸素と作用してサビらしているのです
ステンレスはサビるからサビない!?
 ステンレスはサビる事によってサビない・・・。変なフレーズですがこれは事実です。ステンレスは鋼鉄とクロムとニッケルの合金です。鋼鉄のサビはもちろん赤サビですが、クロムのサビは「透明サビ」なのです。また鋼鉄よりクロムの方がサビるのが早く、鋼鉄が酸化する前にクロムが透明の酸化皮膜(透明サビ)を表面に作ってしまうため鋼鉄が酸素に触れにくくなり赤サビが発生しにくくなるのです。しかし鋼鉄とクロムは仲が悪いためニッケルが「つなぎ」目的で配合されているのです。自転車で必要な強度が確保できて一番赤サビがでにくいのはクロム18%・ニッケル8%を含有した鋼鉄で18-8ステンレス(SUS304)と呼ばれています。クロムの量が増えれば増えるほど赤サビは出にくくなりますが、強度はもろくなり重量が重くなります。目的によって配合が使い分けされています。
 ・・・要は水洗いしてクロムを積極的にサビさせれば鋼鉄が赤サビを出しにくくなるのです。またステンレスを油などで拭いてしまうと赤サビが出てきてしまうのは、油がクロムの透明サビをとってしまうため鋼鉄に酸化する時間を与えてしまうためです。ステンレスには油はご法度!
だから鉄もステンレスも洗うのが一番!
 これでわかりましたね。一番良い自転車のお手入れの仕方。

●鉄の部分
@しっかり水で洗う
A水分をしっかり拭き取る
B粘性のあるオイル等を塗布すればなお良い。

●ステンレスの部分
@しっかり水で洗う・・・これだけでOK。


洗った後には両者ともベアリング、チェーン等摺動部に必ずグリス、オイル等を与えてください。洗うときに電気部は避けてください。最近は車の排気ガス、焼却炉の焼却ガスが赤サビの原因の大きなファクターとなっています。の対策も「洗うこと」です。

洗わなくてもきれいな濡れ雑巾で拭くだけでも全然違いますよ!
人はサビないと生きることができない。
 余談ですが、最初に述べた「鉄は酸化するのが一番安定している」という性質・・・実はこれ、人間(動物も)の体内に基本的な機能として取り込まれているのです。それは血液。血液の赤血球に含まれるヘモグロビンの主元素は鉄でできています。血液は肺を通ったときに呼吸で得た酸素を、このヘモグロビンの鉄元素に「酸化・サビる。」という形で結合し、酸素を体内の取り込んでいるのです。サビるしくみがないと人間は呼吸ができないわけです。ちなみに血液が赤いのもサビのせい。血をなめた時の味とサビの味が似ているのもこのせいです。